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今年のアナログレコードについて、これからのアナログレコードについて

2022年12月20日

アナログレコードの人気、需要の高まりは今年(2022年)に入ってもとどまることを知らず、アナログレコードの祭典として広く認知されるようになった“レコード・ストア・デイ”や“レコードの日”も例年同様大いに盛り上がりました。

東洋化成が主催する“レコードの日”では、羊文学の『our hope 』が即完売になったり、これまで何度も再発を重ねている佐藤博の『awakening 』や大貫妙子の『MIGNONNE」もオンラインで早々に予約がうまってしまうなど、アナログレコードの人気の高さが窺える一年となりました。

また、今年は著名アーティストによる新作のアナログレコードのリリースも話題になりました。
目立ったところですと、宇多田ヒカルが最新作『BADモード』をリリースし(宇多田ヒカルは過去作全8作品をアナログ・レコードでリリースしこちらも話題になりました)、山下達郎は11年ぶりのオリジナルアルバム『SOFTLY』をリリースしました。
今後もレコードの祭典は活況を保ち、アナログレコードのブームもまだまだ続くことでしょう。

さて、今回のブログではここ数年のアナログレコードの人気の高まりについて、また、これからのアナログレコードの需要について、ごく簡単ではありますが過去のデータなどを手掛かりにしながら検討してみたいと思います。

2020年、アメリカレコード協会(RIAA)はその年の上半期のアナログレコードの売り上げが、1980年代以降初めてCDセールスを上回ったという興味深い報告を発表しました。その報告によると全体の売り上げ(レコードやCDといったフィジカルのみ)の62%がアナログレコードで、売上額は1億3210万ドル(約246億円)。一方のCDの売上額は1億2990万ドル(約138億円)となっています。*1

一方、日本国内ではどうなっているのか少し目を向けてみると、SoundScan Japanの2020年の年間売上動向調査に興味深い報告が載っていました。それによると、市場規模は小さいながらも、年々右肩上がりにアナログレコードの売り上げが伸びていることがわかります。*2

上述したことから、現在国内外を問わずCDの売り上げの低迷が取り沙汰されていることがわかると思います。前回のブログでも触れましたが、その原因の一つとして音楽配信サービスが普及したことが挙げられます。このことは各媒体などが指摘していますし、個人的にもその通りだと思います。しかし音楽配信サービスの興隆に加えてCDの物理的な寿命に限界があることの問題を考えあわせたとしても、これらの理由のみでは、なぜCDの需要だけが年々減少してレコードの需要は増加しているのかがはっきりしません。とはいえ、こちらとしてもそのことについて明確な回答を用意しているわけではありません。ですからこうしてこの記事を進めてゆくのは大変心苦しく憚られる思いもするのですが、レコードの需要の増加や再評価が進んだ理由としてすぐに考えられることが一つあります。それはレコードの、“モノ”としての魅力が、思いのほか若い世代に響いたのではないかということです。

たしかにレコードを聴く際、313ミリ×315ミリサイズのLPジャケットから塩化ビニール製のアナログレコードを取り出し、専用プレーヤーに乗せてスイッチを押し、そこへ針を落とす、といった一つひとつの行為が独特の身体的な体験をもたらしてくれます。こうしたある種の快楽を知った若い世代がたくさ現れてきたことに加えて、海外におけるいわゆる和シティポップブームによってレコードが話題になったことが若い世代を刺激したのではないかと考えられます。もちろん若い世代ばかりでなく幅広い世代に支持されていなければこれほどの需要の高まりとはならないでしょう。

しかしここで注意しておきたいのは、今の若い世代がかつてのレコードの享受の仕方をそのままトレースするようにして楽しんでいるのではなく、それとは少し異なる状況下で、独自の仕方でレコードに接している点です。
若い世代はCDやカセットなどの多様なメディアがありながら、さらに音楽配信などが充実している中であえてレコードを選んでいます(もちろん近年ではカセットテープも注目されていて、アナログ文化全体に対して大きな関心が集まっていることがうかがえます)。往時のようにレコードをはじめとする限られたメディアを求めるしかなかった状況とは随分様相を異にしている中でレコードを聴いていることは注目に値するでしょう。

さきほど述べたレコードにおける身体的な体験の魅力にもかかわることなので、ちょっと個人的な体験談を一つお話ししておこうと思います。

とあるレコード店で、水平にしたスマートフォンを耳に押し当てて手元のレコードのジャケットに見入っている若い人を見かけたことがあります。おそらく通話をしているのではなくそのようにして手元のレコードの内容を配信サービスか何かで聴いて確かめていたのだと思います。ふと、その光景を見た時、若い世代がアナログレコードを好んで聴くようになったきっかけは、ひょっとすると音楽配信サービスに他ならないのではないかと思ったことがあります。
若い世代は、配信かフィジカルか、という貧しい二者択一に陥らずにうまく音楽配信サービスを利用してレコードにたどり着き、配信の利便性とフィジカルの魅力を味わいながら、各々知識を深めているのではないでしょうか。

今後の音楽鑑賞(ここでいう「音楽鑑賞」はライブやコンサートのことを対象にしていません)の主流は音楽配信サービスであると思っています。ですが、現在そうした配信サービスを利用しながらアナログ文化に接するという興味深い逆転現象が起きているような気がします。
逆説的な物言いが許されるなら、新たな音楽配信サービスが続々と登場する限り、アナログ文化の終焉は訪れないだろう、というのが私の見立てです。また、当分この予測に変更は加えられないとも思っています。

*1:アナログレコードの売り上げがCDを上回る | ARBAN (arban-mag.com)  を参照。

*2:2020年年間アナログ・レコード売上動向発表 売上金額と売上枚数共に増加 を参照。

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